こいつは一体、何者なのか?

 

先日の銚子で撮影したアイスランドカモメ亜種kumlieniの3wではないかと疑った個体。いろんな人に話を聞きながら、自分なりに検証してみました。

 

 

現場ではしっかりチェックしていなかったため、同行者と「小さいワシカモメだね」と話して気にも留めていませんでしたが、帰宅して1枚目の写真を見たときに初列風切の異変に気づきました。P7が真っ白! ワシカモメに全部真っ白な初列風切はないので、現場で何とも思わずに同定したワシカモメが候補から脱落しました。よく見ると体が小さいだけでなく足も短めで、もう、この時点でやってもうたーーーって感じでした(苦笑)

その上で次に頭に浮かんだ候補は、雑種かアイスランドカモメ亜種kumlieniでした。シロカモメは灰色部分があるので即除外、カナダカモメも真っ白い初列風切はないので除外。こうして前述の2候補に絞られたわけです。ちなみに最初は亜種kumlieniにしては頭から胸にかけての褐色斑が多い気がしましたが、いろいろ調べた結果、どうやら許容範囲内。この辺は日本にカモメ類を詳細に解説した図鑑がないため、Klaus Malling Olsenの「GULLS」などを購入するしかなさそうです。

さてここで一度、この写真の個体の初列風切の特徴を整理します。3枚目の写真からわかることは、①右翼より、初列風切の裏側が真っ白、②左翼より、一番伸びている部分をP10とするならば、P10-P8までの外弁が内弁より濃い灰色、③左翼より、一番伸びている部分をP10とするならば、P10-P9までしかムーンがなさそう、もしくはP8に先端の白斑とムーンになるべき白色部分の間に灰色部分があったとしても極小でムーンは不完全。つまりP8以降の初列風切は白い部分がかなり多い、④初列風切の尾羽からの突出が少ない、この4点が特徴として挙げられます。

これらを前提に亜種kumlieniの可能性を探ります。まず、①についてですが、亜種kumlieniの特徴と照らし合わせても何ら問題なし。次に②について、外弁が内弁に比べて灰色が濃いのは特に問題がないと思うのですが、枚数が3枚では少ないように思います。おおよそ4~5枚程度は灰色の濃い外弁がある個体が多いようです。その点で疑問が残ります。③についても、完全なムーンが2枚しかないのは少ない気がします。④についてはアイスランドカモメの初列風切の尾羽からの突出が大きいという特徴から外れてしまっていますが、亜種kumlieniはシロカモメ亜種barrovianus並みに突出が小さい個体も少なくないとのこと。ギリギリOKと言えるかもしれません。

以上のことから亜種kumlieniの可能性を否定するのかと言ったら、そうではなく、P10が伸びきっておらずに見えていない可能性はないかと考えました。この時期、基本的にはアイスランドカモメの初列換羽はしてないようなのですが、同行者が2015年12月中旬に撮影した成鳥個体は、P10が完全に伸びきっていませんでした。2016年の1月初頭に撮影した同個体の写真を確認しても、まだ若干伸びきっていない印象です。もし、この個体の換羽スピードが遅い場合、②と③と④の疑問点は一気に解決します。④に関しては、P10が伸長中で隠れている場合、P9と見なす部分もまだ伸びきってはいないようにも見えます。ここからP10も伸びきった場合、初列風切の突出はまずまずアイスランドカモメとして納得のいく範囲に収まりそうです。②と③についても、それぞれ4枚に先端の白斑とムーンの間の灰色部分があれば、まずまず許容範囲内ではないでしょうか。これはあくまで超大胆な推測ですけどね。

 

これとは別にもう1点、アイスランドカモメの基亜種はglaucoidesで、亜種kumlieniはカナダカモメとの交雑で誕生したとする論文があります。ここで詳しくは説明しませんが、論文を和訳してわかりやすく要約したものがネット上にあるので探して読んでみてください。2種の交雑によって誕生した亜種kumlieniは交雑だけに個体差が大きく多様性があることが知られています。また、亜種kumlieniは基亜種glaucoidesともカナダカモメとも交雑するため、結果、基亜種glaucoidesに近いものからカナダカモメに近いものまで、様々な個体が確認されているようです。

カナダカモメも個体差が大きく多様性があることは知られていますが、これは亜種kumlieniとカナダカモメの交雑個体が存在するためで、どの程度カナダカモメ寄りの特徴を持っているかによって生じていると推測します。イメージしやすく言えば、-1・0・+1の目盛りがあって、0より-1に寄るにしたがってよりカナダカモメらしくなり、0より+1に寄るにしたがって亜種kumlieniらしくなるとイメージしてもらえばいいと思います。もし、0だった場合はどちらか迷う個体ということになりますが、実際に亜種kumlieniかカナダカモメか判断のつかない個体もいるようです。

では、なぜ基亜種glaucoidesだけが迷うことなくこの3種のなかで同定できるのかというと、これは3種の識別において初列風切の色やパターンが重要視されているからでしょう。亜種kumlieniもカナダカモメも初列風切に色が着きます。その程度によっては識別が困難な個体が存在しますが、基亜種glaucoidesは初列風切が真っ白で間違いようがないため、迷うことなく同定できるのだと思います。

まあ、自分で研究したわけではないので、いろいろ読んだ論文の要約をもとに自分なりに解釈した暴論ですが、そんなに見当違いの推測ではないと思います。論文によれば、3種のなかでカナダカモメが一番数が少なく、次いで亜種kumlieni、一番多いのが基亜種glaucoidesのようですが、交雑が進んでいるそうなので、いずれはカナダカモメも基亜種glaucoidesも消滅して、亜種kumlieniばかりになる可能性が高そうです。また、この3種を隔離的に定義することは恐らく不可能で、純粋なカナダカモメから基亜種glaucoidesまで連続的にそれぞれの特徴を備えた多様な個体が存在するようです。

 

長々とアイスランドカモメについて書いてきましたが、論文をもとにした上記の推測が正しいとすれば、この写真の個体は基亜種glaucoides寄りのアイスランドカモメ亜種kumlieniと結論づけてもいいように思えます。仮にP10が隠れていなかったとしても、初列風切の白色部分が一般的な亜種kumlieniより多いのは基亜種glaucoidesとの交雑の過程で十分に起こりえることではないでしょうか? だったら雑種じゃん!と言う人もいるかと思いますが、そもそも亜種kumlieni自体が交雑で誕生した可能性が高いのです。また、ほかのセグロカモメ系も交雑によって種分化してきたと考えられています。とするならば、亜種kumlieniも立派な種として認められてもおかしくないでしょう。

 

ということで、今後、私はIOCを無視して亜種kumlieniをKumlien’s Gull(クムリーンアイスランドカモメ)と名前を別にした方がいいかなあと考え中。実際に無視して勝手に英名をつけてる亜種がもういますけど(笑) ただ、カモメ類ってどの種も一般的な識別点だけで判断したら大やけどをしちゃうと思うんですよね。きっと、この写真の個体も見る人が見れば、何か問題点があるはず。実際、かなり信頼している某Aくんは雑種を主張し、もう1人の優秀な某Bくんもパッと見で雑種と主張してるんだよね~(苦笑) Aくんには詳しく説明を求めて回答をもらったけど、個人的には合点のいかない部分があって、今回、自分なりに検証してみたわけです。なのでこの写真の個体について何かは断定しません(笑)

ここまでこの写真の個体が亜種kumlieniであることを肯定するためのようなことばかりを書いてきましたが(笑)、一方で何か別の交雑で生まれた雑種であるとするならば、それはもはや今の私の知識の範囲外。。。 完全にお手上げです。Aくん、Bくんが雑種と判断したからには、やはり何かしら絶対的に気になる点があるのでしょう。そもそもこの検証自体、ど素人が論文を都合よく解釈して行ったものなので、絶対に参考にしてはいけませんよ!(爆) もし、全くのとんちんかんな検証だったとしても、一切、責任を負いませんので悪しからず!! 結局、行き着く先は初列風切を撮影できなかった自分の落ち度なんだよなぁ。。。 まあ、亜種kumlieniは世界的に見たら別に少ないわけじゃないので、日本国内での撮影にこだわる必要はないという、身もふたもない大前提に戻ってしまうんですけど(苦笑)

 

ちなみに今さらどうでもいいことだけど、2枚目の写真の左手前に写ってるかなり黒い若鳥、何だか異様。同行者に言われて気づいたけど、珍カモメだったかもしれない。。。

 

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